2016年12月にASEAN10ヶ国における医療機関調査の最後の国、ブルネイの首都バンダルスリブガワンを訪問しました。当時の記事を記載して、再度ASEANの医療機関を調査していくきっかけとしたいと思います。
「ブルネイ王国は、マレーシアとインドネシアの共有するボルネオ島の北部に位置します。おおよそ46万人の人口しかいないイスラムの小国です。 ASEAN10ヶ国の一員であり、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンとともに海のASEAN5ヶ国を構成しています。
まず、王族が設立した国立リパス病院を視察しました(写真上)。設備も新しく日本の一般的な病院にある設備はすべて備えていました。最近新しくした病棟もあり、また産婦人科と小児センターを日本の飛島建設で建設したばかりで全体として余裕のある病院でした。ただHPも出していない病院であり、病院全体のブローシャーもありません。誰もが知っているということなのでしょうが、患者に情報開示ができていないころは残念です。
なお、リパスでは2013年に、国立病院や診療所すべてで同じデータを扱う電子カルテ(BruHIMS=Brunei Darussalam Healthcare information and Management System)を入れました。現地の人はPACSと呼んでました。画像システムも含まれているからでしょうか。
システム導入により患者情報の管理がトータルでできるようになったものの、ガイドに聞いたところ、以前と比べて入力が遅く待たされる時間がながくなったということでした。導入当初はあるあるですよね。
ブルネイでは酒もたばこも販売していないなか、甘い食事や米食が肥満による糖尿病、高血圧の患者が多くなり、死亡第一位は癌ではなくて心疾患であると聞きました。いたるところに、OBESの看板があり、チームのなかで私が黄色か赤かで話が盛り上がったのでした。
次に訪問したのは国王のポロのグランドや遊園地がある、ジュルドンパーク(ジュラシックパークではありません)メディカルセンター(JPMC)110床です(写真中)。JPMCは実はグレンイーグルス、すなわちパークウェイグループでした。JCIもとっている優秀な病院で、国立病院とは異なり、マーケティングマネージャーへのコンタクトもOKになりました。
以前KL(クアラルンプール)のグレンイーグルスを視察したときには、ICUや病棟も回り、一日何十万円もする病室やNICUもみせてもらうなどの歓迎ぶりでしたがさすが民間病院です。なお、グレンイーグルスはコタキナバルにも病院を開設しており、パークウェイの親ファンドがマレーシアのファンドだけのことはあるなという印象です。
シンガポール最大の病院グループ「パークウェイ・ホールディングス」は、マレーシア第2位の病院グループ「パンタイ・ホールディングス」とともに、マレーシアの国策投資会社「カザナ・ナショナル社(カザナ社)」が保有するアジア最大の病院持ち株会社「インテグレイテッド・ヘルスケア・ホールディングス社」の傘下にあります。
グレンイーグルスは、最近ヤンゴンにも病院開設するとのことで、陸のアセアンはバンコクグループのサムティベイトが、我々が訪問したプノンペンのロイヤルホスピタルやヤンゴンで訪問した2病院と提携をしていたので、パークウェイは海のアセアンを攻めていると思っていましたが、陸のアセアン、それも外資の病院進出を許可していなかったミャンマーに展開するとは驚きです。
なお、隣接するJPMCのハートセンターは40床(サムネイル写真)で医師7名(非常勤含む)ということでした。増加する心疾患への対応を行う貴重な病院だということが分かりました。
ブルネイには4県(東京でいえば区のようなもの)がり、4つの病院があります。我々が行かなかったのは、クワベライト病院(本当はPengiran Muda Mahkota Pengiran Muda Haji Al-Muhtadee Billah Hospital→王族の名前)183床と、テンブロンにある病院50床です。前者は首都から107kmで諦めましたし、後者は内科、小児科、産婦人科、歯科があるものの、たぶんプライマリーに近いのではないかという思いがあり、行くのは止めました。
トゥトング病院138床は、その一つであり、比較的小ぶりな病院です。やはりHPはなく、内科、外科、小児科、産婦人科、耳鼻科、精神科という標榜をしています。とても、オープンな感じがあり、徐々にベッド数を拡大する方向にあるとのことで活気があります。この病院は一般的な処置はできますが、救急体制はあるものの、二次急という機能はなく、1.5次というイメージでしょうか。大きなオペ以外では日本と同じ医療レベルであるとの話を聞いています。
医師がブルネイで600人弱であるなか、この病院にどの程度医師が関与しているのかが不明です。もし、外国人医師が含まれていなければ50%の外国人比率なので、1200人の医師ということになります。1000床+国立診療所6ヶ所やヘルスセンターがあり、また民間の診療所が幾つもあるので、どのように分かれているのかは不明でした。
豊かな石油資源に支えられたブルネイでは1ブルネイ$を負担すれば家族の渡航費も含み海外で受けた医療費はすべて国が負担する医療制度になっています。海外に治療に出ていた患者を海外に出さないようにするために設立したブルネイ癌センター(TBCC)(ベッド数未定)(写真下)、を視察しました。TBCCは、2016年6月に80億円(B$100M)をかけて建設した施設でオフィシャルにオープンしていないため、院内をみせてもらえず残念でした。
セキュリティーの担当者はNARUTOのファンで、快く政府とNGOの病院と教えてくれましたが、まだ正式な開業日は分からない(来年の1月1日に国王が来てオープンするかも)とのことでした。ブルネイ大学にはPAPRSB健康科学研究所が医学部の役割を果たすものの、医師は英国でトレーニングを受けて帰国するということでした。
医療のレベルはまだまだということで、医師は海外からの供給に依存しており、前述のように外人の医師が5割近く従事しているとのことでした。外国人は、医師国家試験の合格が条件ではなく、保険省の面接審査によりブルネイで働くことができると聞いています。日本人医師は0人と聞いていますが、誰かがチャレンジしても良いのではないかと考えています。。
何れにしてもすごい施設で、海の真横に建設されており、良い治療環境だと思います。なお、PJMCと廊下がつながっているのは、たぶんパークウェイがコンサルティングしているのではないかと思います。私が上海国際医療センターのジャパンデスクの支援を行っていたときにも、彼らが表に出ずにコンサルティングをしており2億円の年間コンサルフィーをとっていました。ということでまた来年以降、この病院がオープンしてから来てみようと思います。
ブルネイにはマレーシアKLからのブルネイ航空のフライト、4泊(機内泊2日)5日の強行軍での訪問でしたが、やはり現地に来ると大まかですがリアルな医療の構造が分かります」。(文責:石井友二)
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